居宅介護支援事業所は、介護保険サービスを受ける際に重要な役割を果たす「介護支援専門員(ケアマネージャー)」が所属する事業所です。
この記事では、居宅介護支援事業所の具体的な役割、地域包括支援センターとの違い、どんな人員基準・仕事内容なのか、利用方法や選ぶ時のポイントなどを知ることができます。介護が必要となる高齢者やそのご家族が介護保険サービスを利用するときに参考にしてください。
居宅介護支援事業所とは
居宅介護支援事業所の役割は、自宅や高齢者向け住宅などで生活を続ける介護が必要な人がその人らしい日常生活を送ることができるよう適切なサービスなどを調整することです。
居宅介護支援事業所には介護支援専門員の資格を持った人が所属しています。介護支援専門員は通称「ケアマネージャー」と呼ばれています。
介護が必要な人の心身の状態、生活環境、そして本人や家族の希望などを考慮し、生活上のケア方針や内容などを示した居宅サービス計画を作成します。
ケアマネージャーが作成する居宅サービス計画のことを通称「ケアプラン」と呼ぶため、居宅介護支援事業所はケアプランセンターとも呼ばれます。
ケアマネージャーは介護サービスを提供する事業者と連携し、必要なサービスが確実にご利用者に提供されるよう調整します。このように、居宅介護支援事業所ではケアプラン作成や事業者との連絡調整などが行われますが、これらの費用は介護保険から全額給付されるため、ご利用者の自己負担費用は発生しない仕組みとなっています。
地域包括支援センターとの違い
居宅介護支援事業所と混同されやすい施設として地域包括支援センターがあります。
居宅介護支援事業所は主に要介護1~5の認定を受けた利用者を対象としているのに対し、地域包括支援センターは要支援1・2の方や、要支援の認定は受けていないながらも要支援の状態になることを予防することが必要と判断された介護予防・生活支援サービス事業対象者を対象としてケアプランの作成やサービス調整を行っています。
地域包括支援センターは地域で暮らす多くの高齢者を対象として包括的な支援を行う中核機関として市区町村が設置をし、運営を委託する場合にも公平中立な医療法人や社会福祉法人などとするように公共性が高い形式がとられています。
【居宅介護支援事業所と地域包括支援センターの違い】
居宅介護支援事業所 | 地域包括支援センター | |
---|---|---|
目的 | 居宅介護支援(居宅で生活する要介護者の支援) | 介護予防支援(主に要支援者等の高齢者の健康の維持、生活の安定のために必要な援助を総合的に行う) |
対象者 | 主に要介護者1~5の認定を受けた利用者 (要支援の認定を受けた利用者について地域包括支援センターから委託されるケースもあり) |
主に要支援1・2、事業対象者の認定を受けた利用者 その他、地域の高齢者 |
主なサービス | 要介護の利用者が介護サービスを利用するための居宅サービス計画(ケアプラン)を作成 適切なサービスが提供されるよう定期的なモニタリング 事業者や関係機関との連絡・調整 |
介護予防サービス計画(介護予防ケアプラン)の作成 適切なサービスが提供されるよう定期的なモニタリング 事業者や関係機関との連絡・調整 |
居宅介護支援事業所の役割
居宅介護支援事業所は、介護保険制度の中の居宅介護支援という種別の事業を運営しています。居宅介護支援の目的は、利用者が自宅で可能な限り自立した生活を送ることを支えることです。
これを実現するために、ケアマネージャーは利用者の心身の状態や生活環境を考慮して、最適な介護サービスを取り入れたケアプランを作成、事業者や関連機関との連携、利用者に適切なサービスが確実に提供されるよう調整、定期的な状況確認などの役割を果たします。
ケアプラン(居宅サービス計画)の作成
居宅介護支援事業所の役割としてケアプランの作成があります。ケアプランを作成するのは介護支援専門員の資格を持っているケアマネージャーです。
ケアマネージャーは、ご利用者やご家族、主治医の意見などから、心身の状況、置かれている環境、ご本人の希望などを情報収集し、ご本人が望む生活のために生活上の課題は何か、どんな支援が必要かを勘案してケアプランを作成します。
ケアプランには、ケアの方針、生活上のニーズや生活目標、利用する介護サービスの内容や事業所名なども記載されています。ケアプランを作成したら、ご本人やご家族、訪問介護や通所介護などのサービス事業者のスタッフなどにも声をかけ調整し、サービス担当者会議を開き、ケアの方針やサービス内容を確認し合い、ご本人の同意を得た上でケアプランが確定します。
介護サービス利用のための連絡・調整
居宅介護支援事業所では、ケアマネージャーがケアプランの作成や各介護サービス事業所と調整を行いますが、具体的にはどのような介護サービスの種類があるのか代表的なものを紹介します。
【生活の場に来てもらい利用するサービス】
- 訪問介護(ホームヘルプ):排泄や入浴などの身体介護や、家事などの生活援助を自宅で受けることができる
- 訪問看護:自宅で看護師等から医療サポートや健康管理を受けることができる
- 訪問リハビリテーション:理学療法士等から自宅や生活環境でのリハビリテーションを受けることができる
【施設に通って利用するサービス】
- 通所介護(デイサービス):日中に施設に通い、生活支援や機能訓練を受けることができる
- 通所リハビリテーション(デイケア):日中に施設に通い、理学療法士等からリハビリサービスなどを受けることができる
- 短期入所生活介護(ショートステイ):一時的に施設に宿泊し介護を受けることができる
【生活環境を整えるためのサービス】
- 福祉用具貸与:生活を支援するための福祉用具(車椅子、ベッド、手すりなど)をレンタルできる
- 住宅改修:安全な生活のための住宅改修の補助を受けられる
ケアマネージャーはこれらの介護保険サービスを提供する地域の事業所を把握し、利用者の状態やニーズに合うサービスの種類を選定し、さらに各事業所の特色などがご利用者に合うかも考慮して利用相談を事業者と行います。必要に応じて体験利用やサービス事業者との直接相談をしてもらう機会などを設定することもあります。
利用の開始に際しては、ケアマネージャーが中心となり、サービス担当者会議を通してケアプランの内容を確認し合います。その後もケアプランに沿って介護サービスが適切に提供されているか、利用者の状況に変化がないかなどをサービス事業所ともやり取りをしながら、必要に応じて利用回数やサービス内容の変更などの調整を行っていきます。
利用者のモニタリング・ケアプランの見直し
居宅介護支援事業所のケアマネージャーの役割は、ケアプランを作成するだけではありません。
ご利用者が介護サービスの利用を開始した後も、介護サービス事業者と電話やメール、FAX、直接事業所を訪問するなどして連絡を取り合い、利用者に適切なサービスが確実に提供されているか、新たなニーズはないかなどを確認します。
また1か月に1回以上の頻度で利用者の生活の場へ訪問し面接や状況確認をするモニタリングを行います。モニタリングでは、サービスの提供状況やケアプランで設定した目標達成に向けて効果が上がっているか、利用者の状況に変化がないかなどを総合的に把握していきます。
必要に応じてケアプランの内容を修正・見直しする必要があるかを考察します。ケアプランの内容を修正し見直しを行う場合には、各介護サービス事業所へ修正した内容を確認し合うサービス担当者会議を行い、再度ご本人の同意を得るという手続きを繰り返していきます。
居宅介護支援事業所の人員基準
居宅介護支援をはじめとする介護保険で位置づけられたサービスには、介護保険法や厚生労働省令などで運営面や人員などの基準が定められており、居宅介護支援事業所はこの基準を遵守して運営されています。
国で運営や人員に関する基準を設けることで、全国のどの居宅介護支援事業所でも、適切な人数の職員が業務に従事していて、同様のサービスが提供されるようになっています。この運営や人員の基準を満たして届け出た事業所を、市区町村が介護保険の事業者として指定しています。
居宅介護支援事業所の人員面の基準について重要な点を取り上げて紹介します。
まず管理者として主任介護支援専門員(主任ケアマネージャー)の資格を持っている人が配置されていることが必要です。主任介護支援専門員とは介護支援専門員としての実務経験が5年以上で一定の研修を受けて資格を得た人です。(2027年3月までは主任介護支援専門員以外のケアマネージャーが管理者として配置することも可能という猶予期間があります)
また、ご利用者を担当するケアマネージャーについては、事業所に1名以上配置し、ケアマネージャー1名が担当することができるのは原則ご利用者35名までという基準を定めています。この他にも様々な基準が設けられています。
【居宅介護支援事業所の人員基準】
役職 | 人員基準 |
---|---|
従事者 | 常勤の介護支援専門員(ケアマネージャー)を原則ご利用者35人につき1人以上配置 |
管理者 | 常勤専従の主任介護支援専門員(主任ケアマネージャー)を配置 |
介護支援専門員(ケアマネージャー)がどのようなことを行う人かについては、「関連記事:ケアマネジャー(介護支援専門員)とは?仕事内容や相談できること・探し方を解説」で詳しく説明しています。
居宅介護支援事業所のサービスの対象者
居宅介護支援事業所のサービスの対象者は、介護保険の要介護認定で要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5の認定を受けたご利用者です。基本的には、居宅介護支援事業所では要介護のご利用者を対象にケアマネジメントを行います。
要支援1、要支援2の認定を受けたご利用者については、地域包括支援センターの職員が介護予防ケアマネジメントを行うことが基本となります。しかし、地域包括支援センターで対応できる高齢者の人数にも限りがあるため、要支援者の介護予防ケアマネジメントの業務を居宅介護支援事業所に委託することができるようになっています。
そのため、要支援の認定を受けたご利用者も居宅介護支援事業所のケアマネージャーが担当になる場合もあります。
居宅介護支援事業所を利用する際の流れ
居宅介護支援事業所を利用する際は、以下のような流れになります。
【居宅介護支援事業所の利用の流れ】
- 市区町村の役所の介護保険の窓口に要介護認定の申請をする
- 認定調査員が状況を確認し認定判定が行われる
- 要介護認定を受ける
- 居宅介護支援事業所を選び契約する
- ケアマネージャーの訪問調査を受ける
- ケアプランを作成する
- サービス担当者会議の開催
- 介護サービス事業所との契約・利用開始
居宅介護支援事業所を利用する際には、まず市区町村の役所で介護保険の要介護認定の調査申請を行います。この申請はケアマネージャーが代行することもできます。
その後、市区町村の職員もしくは委託された調査員が、心身の状況や生活状況確認を行い、医師の意見なども踏まえ認定判定が行われます。
認定の調査申請から、認定結果が確定するまで1か月以内が原則となっていますが、それ以上かかる場合もあります。
要介護認定を受けると居宅介護支援事業所を選び契約します。その後、ケアマネージャーによる訪問調査が行われ、ケアプランが作成されます。
ケアプランの作成と合わせて、介護サービスを提供する事業所の担当者を集めてサービス担当者会議が開催され、ケアプランの方針や内容を確認し合います。介護サービス事業者とも契約を行い、利用が開始となります。
原則としてはこのような流れで居宅介護支援事業所を利用することとなりますが、緊急で介護サービスを利用する必要がある場合などは市区町村やケアマネージャーと相談して順序を変えて対応する場合もあります。
居宅介護支援事業所を選ぶときのポイント
要介護認定を受けた後には、居宅介護支援事業所は各自で選択します。居宅介護支援事業所を選ぶ際には、自宅からアクセスしやすいか、特定事業所加算を受けているか、ケアマネージャーとの相性が良いかをポイントにしていくとよいでしょう。
自宅からアクセスしやすいか
居宅介護支援事業所を選ぶときには、自宅からの距離を選ぶ時の判断基準にするとよいです。
アクセスのしやすさというのは単に自宅から事業所までの距離が近いというだけでなく、自分の生活圏で接点があり、連絡を取りやすいことがポイントになります。
ご利用者や家族が居宅介護支援事業所を直接訪問して何かするということはほとんどありません。介護サービス事業所や高齢者向け住宅などに併設されている事業所や、知り合いが利用して相談などがしやすいなど、その後の生活でも関わりやすいことが大切です。
特定事業所加算を受けているか
居宅介護支援事業所では、24時間連絡体制が組めていることや、ケアマネージャーが3名以上勤務しているなどの条件が整っている事業所では、特定事業所加算という加算があります。
特定事業所加算を算定している事業所であるかについては、厚生労働省の「介護事業所・生活関連情報検索 介護サービス情報公表システム(https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/)」で事業所を検索し、介護報酬の加算状況で確認することができます。
居宅介護支援事業所を利用する際の利用料金はご利用者の金銭的負担はありませんので、体制が整っていると認められている事業所を利用する方が安心でしょう。
ケアマネージャーとの相性は良いか
居宅介護支援事業所を利用するときは、基本的にはご利用者を担当するケアマネージャーが1名決まります。
ケアマネージャーがご利用者の希望や状況をもとに生活全体をコーディネートするので、できるだけ自分と相性がよい人が担当だと話しやすく安心して関わっていくことができます。
まとめ
本記事では、居宅介護支援事業所について詳しく解説しました。その役割や地域包括支援センターとの違い、さらには人員基準や対象者について説明しました。ケアプランの作成からモニタリングやケアプランの見直しまでの流れ、居宅介護支援事業所を選ぶ際のポイントについても触れ、今後居宅介護支援事業所と関わっていくために必要な情報を知ることができたと思います。この情報が皆さんの適切な居宅介護支援事業所選びに役立てば幸いです。