要支援・要介護認定は、高齢者や障害者が必要とする支援や介護の段階を判断し、適切なサービスを提供するための重要な制度です。本記事では、要支援と要介護の違い、それぞれの認定基準や受けられるサービス、手続きの流れを詳しく解説します。要支援・要介護認定の仕組みを理解することで、適切なサポートを受け、生活の質を向上させるための第一歩を踏み出しましょう。
要支援・要介護認定とは
要支援・要介護認定は、支援や介護が必要かどうか、必要であればどれくらいの支援や介護が必要か認定する制度のことです。
この制度によって、受けられる支援・介護サービスの範囲が決まります。
要支援・要介護認定には、以下の2つの区分があります。
- 要支援
- 要介護
それぞれ説明します。
要支援とは
要支援とは、日常生活を送るうえで、多少の支援が必要な状態のことを指します。
要支援の状態では、介護予防サービスを利用すれば、状態の維持や改善ができるでしょう。
厚生労働省が示している具体的な定義は以下のとおりです。
「要支援状態」の定義(法第7条第2項)
要支援と認定された人は、介護予防サービスを利用することができます。
要支援の状態は、要支援1と要支援2の2つのレベルに分類され、要支援1より要支援2の方が支援の必要度が高いです。
要支援に該当する人は、以下のような特徴を持っていることが多いです。
- 日常生活の一部に支援が必要だが、自立している部分もある
- 転倒のリスクが高く、見守りが必要
要支援の具体的なレベルは以下のように分類されています。
区分 | 状態の目安 |
---|---|
要支援1 | 日常生活における基本的動作のほとんどを、自身で行える。 |
要支援2 | 要支援1の段階と比較して、できることが減り、支援と部分的な介護が必要となっている。介護予防サービスを活用することで、現状の維持もしくは状況の改善が見込まれる。 |
要支援の段階で認定と適切なケアを受けることで、状態の悪化を防げます。
要介護とは
要介護とは、日常生活において自身のみで過ごすことが難しく、誰かの介護が必要な状態のことを指します。
厚生労働省が示している具体的な定義は以下のとおりです。
「要介護状態」の定義(法第7条第1項)
身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(要介護状態区分)のいずれかに該当するもの(要支援状態に該当するものを除く。)をいう。
要介護と認定された人は、介護保険サービスを利用できます。
要介護の状態は、要介護1から要介護5までの5段階に分類されます。
数字が大きくなるほど、介護の必要度が高くなることを意味しているのです。
実際に、要介護に該当する人は以下のような状態にあることが多いです。
- 食事や入浴、トイレなどの日常生活動作に介助が必要
- 認知症の症状があり、見守りや介助が必要
- 寝たきりや歩行が困難で、移動に支援が必要
要介護の具体的なレベルは以下のように分類されています。
区分 | 状態の目安 |
---|---|
要介護1 | 起立や歩行の際にふらつきがあり、日々の生活で一部介助を要する状況にある。 |
要介護2 | 自力での起立や歩行が困難な場面が頻繁にあり、日々の生活で一定の支援を要する状況にある。 |
要介護3 | 自力での起立や歩行が極めて難しく、日々の生活のすべての面で全面的な介助を必要とする。さらに、認知機能の低下が見られ、日常生活に支障をきたしている。 |
要介護4 | 自力での起立や歩行がほぼ不可能。食事を含む日常的な活動において、介助なしでは遂行できない。また、認知症により、コミュニケーションや意思疎通に困難がある場面が多い。 |
要介護5 | 寝たきりの状態で、日々の生活のあらゆる側面で全面的な介助を要する。認知機能が進行して、他者との意思疎通が困難な状況にある。 |
介護が必要になったら、早めに要介護認定を受けるのがオススメです。
要支援と要介護の違い
要支援と要介護の大きな違いは、日常生活を送る力にあります。
要支援の人は、ほぼ自分で生活できますが、要介護の人は、日々の暮らしのほとんどで介護や手助けが必要になります。要支援と要介護の違いを理解することで適切なサポートを受けられるでしょう。
特に要支援と要介護の主な違いは、以下の4点です。
- 状態の安定性
- 認知症の状況
- 利用できるサービス
- サービスの利用限度額
それぞれ説明します。
状態の安定性
まず要支援と要介護の違いとして挙げられるのが「状態の安定性」です。状態の安定性とは、病気の症状そのものではなく、介護の量が増えるような変化が起きやすいかどうかを指します。
介護の量が増加するというのは、例として以下のケースがあります。
- 身体能力が低下し、着替えや入浴などの日常動作に介助が必要になる
- 物忘れが進み、服薬管理ができなくなる
- 慢性疾患の症状が悪化し、より頻繁な医療的ケアが必要になる
判断の基準は、認定を受けてから半年以内に介護度を見直す必要があるかどうかです。
つまり、半年以内に進行して要介護状態になりそうなので再評価が必要だと判断されると、要介護1だと認定されるということです。
認知症の状況
次に要介護と要支援の違いとして挙げられるのは「認知症の状況」です。認知症の状況を評価する際、「日常生活の自立度」というのが重要な評価基準とされています。他人の目が届く範囲であれば、日常動作に支障があったり、意思疎通がやや難しかったりしても、生活を送れている状態というのが基準です。
この基準の場合、「日常生活自立度」のレベルがⅡであると分類されますが、この基準より自身で生活を送るのが難しいと判断されると要介護1であると認定されます。
日常生活自立度がⅡの場合に見られる行動は、以下のとおりです。
- 時々、道に迷ってしまう
- 買い物や金銭の取り扱いで、今までできていたことでもミスが増えてきた
- 薬の管理が難しくなることがある
- 電話や来客への対応が難しくなっている
これらの頻度が増えて自身で生活を送るのが難しくなると、要介護1だと認定されるでしょう。
受けられるサービス
要支援と要介護では、利用できる介護サービスの種類や内容が異なります。
具体的に要支援と要介護で利用できるサービスは、それぞれ以下のとおりです。
利用できるサービス | |
---|---|
要支援 |
|
要介護 |
上記のサービスに加え
|
サービスの利用限度額
要支援と要介護では、介護サービスの利用限度額に大きな差があります。支援・介護が必要な度合いを判定する認定調査の結果によって、要支援・要介護度が決定されるのです。
この要支援・要介護度に基づき、1ヶ月ごとに利用できる介護保険サービスの上限額が設定されます。これは「利用限度額」や「支給限度額」と呼ばれるのが一般的です。
ただし、この限度額は現金で直接支給されるわけではありません。代わりに、実際に介護サービスを受ける際、その利用料から差し引かれる形で適用されます。
つまり、サービス利用時に自己負担額が軽減される仕組みとなっています。
具体的な限度額は、以下のとおりです。
区分 | 1か月あたりの利用限度額 |
---|---|
要支援1 | 50,320円 |
要支援2 | 105,310円 |
要介護1 | 167,650円 |
要介護2 | 197,050円 |
要介護3 | 270,480円 |
要介護4 | 309,380円 |
要介護5 | 362,170円 |
参考:厚生労働省|介護事業所・生活関連情報検索 サービスにかかる利用料
利用限度額内であれば所得に応じた自己負担割合(1~3割)になり、限度額を超えた分は全額自己負担になります。具体例として、要支援1の場合は、1ヶ月50,320円が利用限度額となり、サービスを利用する際には1~3割負担の5,032円~15,096円が自己負担となります。
また、介護保険サービスの月々の利用限度額は、未使用分を翌月に繰り越せないので気をつけましょう。
要支援・要介護認定を受ける方法
要支援・要介護認定を受けるには以下の流れで手続きを行いましょう。
① 市区町村の窓口で申請する
② 訪問調査を実施する
③ 主治医の意見書をもらう
④ 一次判定・二次判定を受ける
⑤ 要支援・要介護認定の結果通知を受ける
それぞれの手順について、説明します。
①市区町村の窓口で申請する
要支援・要介護認定を受けるには、市区町村の窓口で要支援・要介護認定の申請を行わなければなりません。
申請に必要な資料は、以下のとおりです。
- 認定申請書
- マイナンバーカード
- 写真付き身分証明書
- 介護保険被保険者証
必要な資料は自治体によって異なるケースがあるので、事前に確認しておきましょう。認定申請書は市区町村の窓口やホームページから取り寄せられます。
また、申請の際には本人や親族以外にもケアマネージャーが代理で申請するのも認められているので、必要に応じて代理を頼みましょう。
②訪問調査を実施する
申請後、市区町村の職員や委託されたケアマネージャーが要介護者を訪問して、聞き取り調査を行います。
具体的には以下の項目が調査されます。
項目 | 質問する内容の例 |
---|---|
身体機能 | 麻痺、寝返り、起立、立位保持 |
日常生活の動作 | 食事、排泄、着衣、外出頻度 |
認知機能 | 短期記憶、徘徊の有無 |
行動 | 大声、物忘れ |
生活管理 | 服薬、金銭管理 |
医療処置 | 点滴管理、人工肛門のケア |
これらの質問の項目約70種類にも及び、30分から1時間程度かかります。また、聞き取り調査に回答する際には以下の内容を意識しましょう。
- 日頃の状態を含め、細かな情報も伝える準備をする
- 排泄の失敗や問題行動などは、本人不在時に伝えるか、メモで渡すなど配慮する
- 伝えたい点は事前に整理しておく
調査員の質問には、ありのままの状況を正直に答えることが大切です。また、普段の生活の様子が分かる写真や資料があれば、用意しておきましょう。
③主治医の意見書をもらう
要支援・要介護認定には、主治医が作成した意見書が必要です。意見書は支援や介護を受けるための公正な資料であるためです。
主治医に意見書を作成してもらう方法は以下の2パターンあります。
- 自身で依頼して直接書いてもらう
- 市区町村の窓口を通して主治医に依頼する
自身で依頼する場合は市区町村の窓口で意見書を受け取るか、自治体のホームページから印刷して主治医に渡しましょう。
市区町村の窓口を通す場合は、窓口から主治医に依頼書が送付され、医師が意見書を作成します。どちらの方法でも、主治医には認定を受けたいので意見書を作成してほしいことを必ず相談しましょう。
その際に、夜間のトイレ使用状況や認知機能の低下など、不安要素を全て医師に伝えることが大切です。
④一次判定・二次判定を受ける
訪問調査の結果と主治医の意見書をもとに、一次判定が行われます。一次判定はコンピューターによる判定で、要介護度を数値化するものです。食事、排泄、入浴などの日常生活の動作にどれだけの介護が必要か調査されるのが特徴です。
一次判定の後、専門家の審査会による二次判定が行われます。二次判定では、一次判定の結果を踏まえつつ、訪問調査の報告書や主治医の意見書なども考慮し総合的に判断を行うのが一般的です。
二次判定では以下の要素が重視されます。
- 身体機能の状態
- 認知機能の状態
- 精神・行動面の状態
- 社会生活への適応
⑤要支援・要介護認定の結果通知を受ける
全ての手続きが終わると、認定結果が郵送で通知されます。
支援・介護サービス利用開始までの流れは以下のとおりです。
① 認定結果の受け取り
② ケアマネージャーへの相談
要支援の場合:地域包括支援センターのケアマネージャーへ
要介護の場合:居宅介護支援事業所のケアマネージャーへ
③ ケアプランを作成
④ 支援・介護サービスの利用開始
初回認定の有効期間は原則6ヶ月間で、その後は更新の手続きをしなければなりません。認定結果に不満がある場合は3ヶ月以内に再度認定を受ける申請をしましょう。
まとめ
介護サービスには多くの種類があり、要支援と要介護のどちらかに認定されるかで利用できるサービスが変わります。
要支援・要介護認定とは、支援や介護が必要かどうか、必要であればどの程度の支援や介護が必要か認定する制度のことでした。
要支援と要介護の違いは、以下のとおりです。
- 状態の安定性
- 認知症の状況
- 利用できるサービス
- サービスの利用限度額
支援・介護サービスを受けるには制度を理解して正しい手順で申請しなければなりません。事前に申請に必要な情報を把握しておき、家族と受けたいサービスを検討・相談するとよいでしょう。